妊婦健診完全ガイド:スケジュールと検査項目詳解
妊婦健診(産前検査)は妊娠中の健康管理の重要な部分であり、体系的かつ定期的な検査を通じて母体と胎児の健康状態を監視し、異常を早期に発見・対処することができます。
妊婦健診スケジュール表
妊娠初期検査(1-12 週)
第 6-8 週:初回健診
妊娠確認検査
- 尿中 hCG 検査:妊娠の確認
- 血中 hCG 検査:定量検査、胚の発育評価
- 超音波検査(エコー):
- 子宮内妊娠の確認
- 子宮外妊娠の除外
- 胎芽と心拍の確認
- 妊娠週数の確定
基礎検査
- 身長・体重:BMI の計算、基礎的な健康状態の評価
- 血圧:基礎血圧のモニタリング
- 血液型:ABO 式血液型と Rh 因子の同定
- 問診:既往歴、家族歴、妊娠・出産歴
臨床検査
- 血算(CBC):貧血、血小板、白血球の検査
- 尿検査:タンパク、糖、ケトン体の検査
- 肝機能:ALT、AST などの指標
- 腎機能:クレアチニン、尿素窒素
- 血糖:空腹時血糖検査
- 感染症スクリーニング:B 型肝炎、梅毒、HIV など
甲状腺機能
- TSH 検査:甲状腺刺激ホルモン
- FT3、FT4:遊離甲状腺ホルモン
- 意義:甲状腺機能異常は胎児の知能発達に影響する
第 11-13 週+6 日:NT 検査
後頸部浮腫(NT)検査
- 検査目的:初期ダウン症候群スクリーニング
- 正常値:一般的に<3.0mm(施設基準による)
- 検査方法:経腹超音波
- 意義:NT 肥厚は染色体異常のリスクを示唆
初期母体血清マーカー検査
- 検査時期:11-13 週+6 日
- 検査内容:母体血 PAPP-A、β-hCG
- リスク計算:NT、年齢、妊娠週数を組み合わせる
- 精度:約 85-90%
母子手帳の手続き
- 妊娠届の提出
- 母子健康手帳の受け取り
- 妊婦健診受診票の利用開始
妊娠中期検査(13-28 週)
第 15-20 週:中期スクリーニング
母体血清マーカー検査(クアトロテストなど)
- 検査時期:15-20 週(推奨は 16 週頃)
- 検査内容:AFP、β-hCG、uE3、Inhibin A
- リスク計算:年齢、妊娠週数と組み合わせる
- 精度:約 80%
NIPT(新型出生前診断)
- 対象:高齢妊娠、スクリーニング高リスクなど
- 検査時期:10 週以降
- 精度:21 トリソミーに対して>99%
- 限界:確定診断ではない(陽性の場合は羊水検査が必要)
通常検査
- 体重・血圧:毎回実施
- 子宮底長・腹囲:胎児の発育評価
- 胎児心拍:ドップラー聴診器で確認
第 18-24 週:胎児ドック(精密超音波検査)
胎児形態異常スクリーニング
- 検査時期:18-24 週が最適
- 検査内容:
- 頭部:脳室、頭蓋内構造
- 顔面:口唇口蓋裂スクリーニング
- 心臓:四腔断面検査
- 脊柱:脊柱の完全性
- 腹部:胃泡、膀胱、腎臓
- 四肢:大腿骨長、四肢の構造
重要構造の検査
- 心臓検査:先天性心疾患の除外
- 神経系:神経管閉鎖障害の除外
- 泌尿器系:腎臓、膀胱の検査
- 消化器系:胃泡、腸管の検査
胎盤位置評価
- 前置胎盤スクリーニング:胎盤位置が低すぎないか
- 胎盤成熟度:胎盤機能の評価
- 羊水量評価:羊水インデックス(AFI)測定
第 24-28 週:妊娠糖尿病スクリーニング
75g 経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)
- 検査時期:24-28 週
- 検査手順:
- 空腹時採血(8-12 時間の絶食)
- 75g ブドウ糖液を飲む
- 服用 1 時間後に採血
- 服用 2 時間後に採血
診断基準
- 空腹時血糖:≧92mg/dL (5.1mmol/L)
- 1 時間値:≧180mg/dL (10.0mmol/L)
- 2 時間値:≧153mg/dL (8.5mmol/L)
- 診断:いずれか 1 つでも異常があれば妊娠糖尿病(GDM)と診断
関連検査
- 尿検査:尿糖、ケトン体の確認
- 体重モニタリング:体重増加のコントロール
- 血圧モニタリング:妊娠高血圧の除外
妊娠後期検査(29-40 週)
第 28-32 週:通常検査
基礎検査
- 体重・血圧:毎回実施
- 子宮底長・腹囲:胎児の発育評価
- 胎位検査:胎児の位置(頭位、骨盤位など)の確認
- NST(ノンストレステスト):リスクに応じて開始
血液再検査
- 血算:貧血の再確認(後期貧血)
- 尿検査:タンパク、糖
- 肝機能:必要に応じて再検査
超音波検査
- 胎児発育評価
- 羊水量評価
- 胎盤成熟度検査
- 臍帯動脈血流測定
第 32-36 週:監視強化
胎児心拍数モニタリング(NST)
- 検査頻度:リスクに応じて。34-36 週以降は毎週行う施設も多い
- 検査時間:20-40 分
- 正常基準:
- 胎児心拍数 110-160bpm
- 基線細変動が良好
- 一過性頻脈(アクセラレーション)あり
生物学的プロファイル(BPP)
- 検査内容:
- 胎児呼吸様運動
- 胎動
- 胎児筋緊張
- 羊水量
- NST 結果
- スコア基準:各項目 2 点、合計 8-10 点で正常
第 36-40 週:分娩前検査
分娩準備評価
- 胎位確認:頭位、骨盤位(逆子)、横位
- 内診:子宮頸管の成熟度(ビショップスコア)
- 骨盤評価:経腟分娩が可能か判断
- 胎盤機能:胎盤成熟度の評価
胎児成熟度評価
- 肺成熟度:早産リスクがある場合など
- 推定体重:超音波による胎児体重の推定
- GBS 検査:B 群溶血性レンサ球菌の検査(35-37 週)
特殊検査項目
遺伝学的検査
羊水検査
- 適応:
- 高齢妊娠(≧35 歳)
- スクリーニング検査で高リスク
- 染色体異常児の出産歴
- 家族性の遺伝性疾患
- 検査時期:15-18 週頃
- 検査内容:胎児染色体核型分析(G バンド法など)
- リスク:流産リスク約 0.3%(1/300)程度
絨毛検査(CVS)
- 検査時期:10-13 週
- メリット:早期診断が可能
- デメリット:羊水検査よりリスクがやや高い
- 適応:明確な適応がある場合
臍帯血検査
- 検査時期:18 週以降
- メリット:迅速に結果が得られる
- デメリット:技術的難易度が高い
- 適応:中後期の診断、胎児治療など
産科合併症スクリーニング
妊娠高血圧腎症スクリーニング
ハイリスク因子評価
- 既往歴:妊娠高血圧腎症の既往
- 基礎疾患:慢性高血圧、糖尿病、腎臓病
- 家族歴:母親や姉妹の既往
- 初産婦:初めての妊娠
スクリーニング指標
- 血圧モニタリング:毎回の健診で必須
- 尿タンパク検査:定期的な尿検査
- 血液検査:血小板、肝機能、腎機能
- 子宮動脈ドップラー:必要に応じて
前置胎盤スクリーニング
超音波検査
- 検査時期:20 週頃からスクリーニング開始
- 診断基準:胎盤の下縁が内子宮口を覆っている、または近い
- 経過観察:30 週頃に再評価(胎盤が上がる可能性があるため)
臨床症状
- 無痛性性器出血
- 胎位異常
- 胎児先進部の高浮
胎児発育不全(FGR)スクリーニング
評価指標
- 子宮底長・腹囲:連続測定で基準値以下
- 超音波評価:推定体重(EFW)が基準値の 10 パーセンタイル未満
- ドップラー検査:臍帯動脈血流異常
モニタリング頻度
- 2-4 週ごと:超音波による発育評価
- 毎週:NST(必要に応じて頻度増加)
検査結果の読み方
正常範囲参考値
血液検査正常値(妊娠中)
- ヘモグロビン:≧11.0g/dL(初期・末期)、≧10.5g/dL(中期)
- 血小板:15-35 万/μL
- 白血球:5000-12000/μL(妊娠中は軽度上昇する)
- 空腹時血糖:70-100mg/dL
尿検査正常値
- 尿タンパク:陰性(-)または偽陽性(±)
- 尿糖:陰性(-)
- 尿ケトン体:陰性(-)
- 白血球:陰性(-)
血圧正常値
- 収縮期血圧:<140mmHg
- 拡張期血圧:<90mmHg
異常結果への対応
ヘモグロビン低値(貧血)
- 軽度貧血:食事療法、鉄剤内服
- 中等度・重度:鉄剤注射、原因精査
- 対応:鉄剤、ビタミン C の摂取
血圧上昇
- 妊娠高血圧:BP≧140/90mmHg
- 妊娠高血圧腎症:高血圧+タンパク尿(または臓器障害)
- 対応:降圧治療、厳重管理、安静、早期分娩の検討
血糖異常
- 妊娠糖尿病:OGTT 異常
- 対応:食事療法(分割食)、運動療法、必要に応じてインスリン
検査の注意事項
検査前の準備
空腹時検査
- OGTT:8-12 時間の絶食が必要
- 肝腎機能・血脂:通常は空腹時が望ましいが、随時でも可能な項目もある
超音波検査
- 妊娠初期:経腟エコーが主(膀胱を空にする)
- 妊娠中後期:経腹エコー(膀胱を溜める必要はないことが多い)
- 服装:上下セパレートの服が便利
NST(胎児心拍数モニタリング)
- 検査前:空腹を避ける(胎児が眠ってしまうため)
- タイミング:胎動が活発な時が良い
- リラックス:緊張を避ける
検査後の注意事項
羊水検査後
- 安静:当日は安静にする
- 症状観察:腹痛、出血、破水感に注意
- 入浴:当日はシャワーのみ、または不可(医師の指示に従う)
- 受診:異常があればすぐに連絡
超音波検査後
- 写真・動画:記念に保存
- 次回予約:指定された時期に予約
- 胎動カウント:日常的に胎動を意識する
ヒント:妊婦健診は母子の安全を守るための重要な措置です。医師の指示するスケジュール通りに受診してください。異常な症状や検査結果が出た場合は、速やかに専門医に相談してください。